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"KAGUYA—the daughter tree" Interview with MORIYAMA Kaiji (Details: Only in Japanese)
2024 Jan.09 (Tue)
舞台芸術創造事業 現代音楽プロジェクト「かぐや」
『かぐや the daughter tree』
森山開次(振付・ダンス)インタビュー
取材・文:小野寺悦子(舞踊ライター)
——ジョセフィーヌ・スティーヴンソンさんとの初コラボレーションとなる本公演で、日本最古の物語『竹取物語』に着目したのは何故でしょう。
このプロジェクトが生まれたそもそものきっかけは、オペラ『Only the Sound Remains-余韻-』(2021年6月東京文化会館日本初演)のツアーで海外に行ったとき、ジョセフィーヌさんを紹介していただいたのが始まりでした。そのときの彼女の印象が、すごく静かで、まるで月のような人だなと感じて。彼女とコラボレーションをするなら『竹取物語』がいいのではないかと閃いた感じです。
ジョセフィーヌさんが与謝野晶子の詩に関心を持っていて、“女性の生きる強さ”をテーマに入れたいという想いを聞き、そういう意味でもかぐや姫の生き方は彼女の考えるテーマに相応しいのではないかと考えました。
僕たち日本人にとって『竹取物語』は慣れ親しんだ物語であり、それだけに固定観念がある。けれど文化の違う方がこの最古の物語を読み解いたとき、どんな視点で切り取られていくかというのも、非常に興味をそそられた部分です。
——クリエイションはどのように進めていますか? ジョセフィーヌさんの楽曲の印象をお聞かせください。
『竹取物語』から言葉を拾っていきながら、現代にも通じるテーマを考えつつ、ポエム的なテキストにする作業がまず一つ。そのテキストにジョセフィーヌさんが曲をつけ、さらに踊りで僕の感性を乗せていく、という形で進めています。
テキストは作詞家のベン・オズボーンさんが書いてくださっていますが、ベンさんの感覚で捉えた言葉にはすごく驚かされました。『竹取物語』というと僕たち日本人はどうしてもストーリーが先に来てしまうけど、物語から読み解いた自然の描写のようなものが、人の心情と共に詩的に紡がれている。とても抽象的な在り方で、ストーリーに固執してしまうとなかなか出てこない言葉たちだなと感じています。
ジョセフィーヌさんの歌は響きがすごく独特で、静かに言葉を紡いでいく。『竹取物語』を書いた作者が物語を語っているような、不思議な声であり語りの在り方が心地良くて。英語で歌っているけれど、フランス語のようでもあり、呟くようでも、囁くようでもある。日本のお客さまは字幕を通すことになるけれど、その響きと共に物語を楽しんでいただける音楽になっていると思います。
弦楽四重奏や箏などさまざまな演奏家とのコラボレーションもこのプロジェクトの魅力で、若手の素晴らしい演奏家が集まっています。日本の奏者たちがジョセフィーヌさんの音楽をどう膨らませていくかというのもまた楽しみにしているところです。
——森山さんがダンスで表現するものとは? 『竹取物語』の世界観をどう描いていくのでしょう。
『竹取物語』のストーリーにあまり縛られることなく、少し想像する余地を持たせたい、という気持ちがあります。かぐや姫を象徴するもの、例えば光をどう表現できるか、試行錯誤していくつもりです。かぐや姫自体を光と捉えつつ、何か大事なものや抽象的なものに置き換えられるような、僕が一つの器になれたらと思っています。
自分に振付をする時は、まず自分の身体が感じることを、実際に身体を動かしながら見つけていきます。ひたすらラフスケッチをする感じでしょうか。今回はまだ曲がない段階からラフスケッチを始めていて、こういう世界観かなと音を想像しながら踊っていました。曲ができた段階で自分のラフスケッチとシンクロするところがあるか探り、全然違う方向を見ていたらそれを修正する。ラフスケッチを重ねつつ、だんだんアウトラインを固めていく、という稽古を繰り返しています。
ずっと一人で稽古を重ねてきましたが、ジョセフィーヌさんや演奏家のみなさんとご一緒したとき、僕から提案するものと、彼らから生まれてくるものも当然あるでしょう。舞台に乗ったときより豊かになるように、感性で動けるゆとりは残しておきながら、なおかつ緻密に作り上げていけたらと……。矛盾してはいるけれど、この双方を大切にしたいと思っています。
——日本初演後、海外ツアーが予定されています。クリエイションにおいて、海外の観客を意識することはありますか?
創作の過程で海外を意識することはあまりないけれど、この物語のテーマを海外の方に伝えられるのか、伝えるべきなのか、というのは常に考えていて、実際とても有意義なことではないかと感じています。
日本文化を伝えるということだけではなく、このコラボレーションは新しい感性を生み出す貴重な機会であり、新しい価値観が生まれる瞬間だとも思う。海外でどう捉えてもらえるかということも含めて、この先の楽しみではありますね。
——会場は東京文化会館小ホールになります。どのような空間演出をイメージしていますか?
小ホールには何度か観客として行ったことはあるけれど、踊るのは初めてです。反響板が独特で、不思議な空間だなと思いながらいつも見てました。実は『竹取物語』を題材にしようと考えたのも、小ホールが会場だからというのがあって。ベンさんのテキストに「ladder to the moon」という言葉が出てきて、“月へのハシゴ”と書かれている。小ホールは壁際に割り竹の照明が連なっていて、それがまるで月へ向かう階段のように見えるというか……。
ホールの質感も岩や山などさまざまな自然の凹凸が刻まれていて、まるでこの作品のためにあるみたい(笑)。今回は特に大掛かりな演出は考えていませんが、会場自体が物語のイメージにぴったりで、その魅力を存分に引き出した作品にしたいと思っています。
——最後に、メッセージを御願いします。
遙か昔、月が何なのかわからなかった時代に、人は想像力で『竹取物語』を紡いだ。想像力でこの物語が作られている、そこにとても感銘を受けています。昔の人が月を見上げながら想像したこの物語は、自然に対する感性があったから生まれてきたものだと思う。今僕たちはいろいろなことを知っているし、宇宙がどういうものかわかっている。現代に生きる上で、自然に対する感性を忘れがちだなと感じています。
地球というもの、自然というものを、なんて美しいのだろうと感じてもらえる作品にしたい。物語を通して地球や人間を俯瞰する瞬間、それがこの作品の醍醐味だと考えていて、みなさんに音楽と踊りでその瞬間を感じてもらえたらと思っています。
舞台芸術創造事業
現代音楽プロジェクト「かぐや」
2024年1月13日(土)15:00開演 東京文化会館 小ホール
公演情報
関連企画:ジョセフィーヌ・スティーヴンソン レクチャー
2024年1月11日(木)19:00開演 東京文化会館 小ホール
公演情報