東京文化会館
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ON-MYAKU 2016 クリエイション・レポート

クラシックの殿堂として知られる東京文化会館だが、舞台芸術創造事業という挑戦的・前衛的な企画も展開中だ。今回はコンテンポラリー・ダンスの白井剛、ピアニストの中川賢一、ビジュアルアーティスト・プログラマーの堀井哲史(ライゾマティクス)という各界を代表する三人が顔を合わせた。誰も見たことのない舞台を作るためクリエイションしていた彼らのプレ公演(2015年12月27日/城崎国際アートセンター)を見てきた!
取材・文:乗越たかお(舞踊評論家)
 「ピアノとダンスのデータを読み取って、リアルタイムに映像を生成し、一体化した舞台を作る」…… という企画は、期待と同時に、不安がつきまとう。「実はこんなすごいことをやっていたんです」と後からいわれても意味はないからだ。なによりもまず問答無用で観客の胸を揺さぶる魅力がなければならない。
 今回のショウイングは、クリエイションの初期、まだ様々なアイデアを試している段階で行われたものだった。だが驚いたことに先述したような不安は、ものの見事に払拭されてしまった。本番までには大きく変わるだろうから、ここではネタバレを恐れずに書いてみよう。この公演が示す大きな可能性を感じてみてほしい。
 ちなみにレジデンス先でありプレ公演会場となった城崎国際アートセンターは、古都の風情を今に残す温泉街にあり、いまや世界中から一流のアーティストがクリエイションをしにやってくる施設である。「夜中の12時過ぎまでクリエイションをしていて、1分後には寝床に入れる。こんな恵まれた環境は初めて」(中川)という中、異例の速さで準備が進んだという。

 さて1曲目はモートン・フェルドマン作曲『バニータ・マーカスのために』である。闇の中をそっと忍び寄るように紡がれる中川のピアノ。白井はゆっくりと音の狭間に身体をすべり込ませる。ひょろりとした猫背の白井は、どんな舞台にも溶け込むように存在し、それでいて空間の要として目が離せなくなる独特な魅力のダンサーである。
 やがてスクリーン前に移動し、演奏がジェルジー・リゲティ作曲『虹』にうつると、堀井の映像が加わる。細かい粒子が白井の身体にまとわりつき、まるで放出されるオーラのようだ。身体の動きに即応し、ときに群れとなって白井とともに「踊る」。無条件に見入ってしまう、美しいシーンだった。
公演リハーサル写真

 4曲目のリュック・フェラーリ作曲『小品コレクション』で、中川は鍵盤の一つ一つにセンサーのついたMIDIピアノを演奏した。本来は演奏データの記録などに用いられるが、これを堀井は入力装置として使ってみせた。スクリーンには中川の手元と鍵盤の生映像が映し出される。白井の姿が小さく投影され、中川の指の動きにからんで楽しい。弾くたびに画面上に登場する棒の長さや球の大きさは、打鍵の強さに対応しているのだ。他にも様々な仕掛けがあるが、白井や中川がその全部を把握しているわけではない。彼らが無意識にその効果を「狙って」しまうことのないように、堀井は「直前にこっそり変更する」こともあるのだとか。
公演リハーサル写真

 途中で中川と白井がマイクをとってレクチャーを始めたのは意表を突かれた。オリヴィエ・メシアンが音を色彩として感じる「共感覚(シナスタジア)」の持ち主だったことなどを語ったあと、中川が脳波センサーを装着するのだ。スクリーンには、メシアンの『鳥のカタログ』を演奏中の中川の脳波が大きく映し出される。共感覚で「音が見えて」いたメシアンの曲、それを弾いている「ピアニストの脳を映像化」するのだから面白い。「緊張」や「弛緩」などのデータが3Dの山脈のようで、氷河を渡る鳥の視点のごとく浮遊する爽快感があった。
 さらに堀井は脳波とは別に「中川が瞬きをすると画面が暗くなる設定」にしていたという。「曲が一区切りして一息つくと、自然に瞬きをする。そこで画面が暗くなることで、演者のリズムに観客も無意識に同調して一体感が生まれる」(堀井)のだそうだ。堀井の演出は、派手なCGだけではなく無意識にまで及んでいたのである。
公演リハーサル写真

 スティーブ・ライヒの『ピアノ・フェイズ』も見事だった。繰り返されるミニマルなフレーズが水の波紋のように出会っては離れていく。ローザスの同名作などダンスの傑作も多いが、白井は数秒前の自分自身の残像と踊ることで独自のダンスを生み出した。
「自分の残像を少しズラしてみたんです。すると、過去の動きに現在の自分の動きが引っ張られる感覚があって、すごく面白かった」(白井)という。
公演リハーサル写真

 このクリエイションを通じて、それぞれが様々な発見をしている様が伝わってくる。そこで鍵となるのがこの「ズレ」と「同期」の兼ね合いだ。
 現代音楽の研究でも第一人者である中川は「楽譜がある演奏は、本来カッチリ合うはずなのに、実際にはズレる。しかもそこが気持ちいい。逆に、各自が勝手にやっている即興は、フッと同期する瞬間が面白いんです」という。

 そしてショウイング後半のクライマックスの曲はリュック・フェラーリの『即興の練習』。シンプルな描線が画面を走る中、嵐のような中川のピアノに時に立ち向かい、ときに打ちのめされながら、全てを受け止めて踊る白井。ここまでくると、もはや仕掛けがどう、などは気にならない。目の前の舞台空間が三人のアーティストによって息づき、その脈動に観客の身体が呑み込まれて一体化するのである。
公演リハーサル写真

 本番では更に多くの現代音楽の名曲とともに、じっくり熟成された舞台がみられるだろう。かつて味わったことのない、希有な舞台経験となるはずだ。



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