音脈 Vol.65|東京文化会館公演情報 2017年1月~3月
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音脈2017 WINTER2©Kurt Van der Elst取材・文/福田淳子(昭和女子大学人間社会学部現代教養学科 准教授)クリス・デフォート(右)、ギー・カシアス(左)interview 01東京文化会館開館55周年・日本ベルギー友好150周年記念オペラ「眠れる美女~House of the Sleeping Beauties~」クリス・デフォート &ギー・カシアス 川端康成の小説「眠れる美女」がベルギーで2009年にオペラ化されていたという事実を知ったのは昨年のことだった。川端康成について研究をしているにもかかわらず、6年間も知らずに過ごしてきてしまったという自己嫌悪に襲われると同時に、川端作品に対して日本では行われたことのない“オペラ化”というアダプテーションがベルギーでなされていたことに強い衝撃を受けた。 1961年に刊行された「眠れる美女」(新潮社、初出「新潮」1960~1961)は、「翻訳書目録」(『川端康成全集35』(1983年、新潮社)によれば1965年の英訳を皮切りに韓国語・オランダ語など13カ国語に翻訳されている。海外においてこの作品に影響を受けた芸術家は少なくなく、たとえば映画では、1994年にフランスで「眠れる美女」にインスパイアされた「オディールの夏」が、2007年にはドイツで原作に近い形で構成された「眠れる美女」が、2011年にはオーストラリアで逆に原作をほとんど留めない形で「スリーピング・ビューティー 〜禁断の悦び〜」が制作された。また文学では、ノーベル賞作家バルガス・リョサのエッセイ(『La verdad de las mentiras』)を読んで「眠れる美女」を知ったというやはりノーベル賞作家のガルシア・マルケスは『わが悲しき娼婦たちの思い出』(2004)を書き、本の扉に「眠れる美女」の本文を引用している。 小説の映画化は日本では昭和初期から行われ、“文芸映画”というジャンルを築いてきた。海外における日本文学作品の映画化も谷崎潤一郞等の近代作家をはじめ、小川洋子・村上春樹等の現代作家の作品でも行われている。一方、小説のオペラ化は海外では古くから行われてきたが、日本の小説のオペラ化は少なく、三島由紀夫の「金閣寺」(1976年)、同じく三島の「午後の曳航」(「裏切られた海」1990年)、遠藤周作「沈黙」(1993年)や武田泰淳「ひかりごけ」(1972年)等が知られている。 ベルギーでのオペラ化になぜ川端の「眠れる美女」が選ばれたのか、そもそもなぜオペラ化なのか、これらの疑問をぜひ演出家や作曲家に投げかけてみたい・・・。願いが叶って、演出家のギー・カシアス氏と、作曲家でカシアス氏と共に台本にも携わったクリス・デフォート氏に、アントワープで会うことが可能となった。9月15日、リハーサル直前の多忙な状況にも関わらず、2時間近くのインタビューに快く応じてくださった。川端康成「眠れる美女」との出会い 二人は、川端の小説「眠れる美女」にどのような経緯で辿り着いたのだろうか。カシアス氏は約20年前に谷崎潤一郞と川端の小説に出会い、その後は大江健三郎や三島由紀夫、村上春樹などを読んだ。川端の作品ではこれまでに「雪国」「片腕」を読んだことがあるが、「眠れる美女」以上に強いインスピレーションや衝撃を受けた作品はなく、これをどうしてもオペラにしたいと思ったという。また、二人は2001年にロディ・ドイルの小説「The Women Who Walked Into Doors」(1996年)をオペラ化しており、記憶をキーワードとして過去と未来を繋いでいく展開が「眠れる美女」にも共通していると感じた。前作が西洋的だったため今度は別の形で愛や死を描きたいと思い、前作上演後すぐに決定したとのことだった。 「眠れる美女」はもちろん文章だけで表現された作品であり、オペラにするのは困難な作業であることは分かっていたが、そこを敢えて挑戦した。文章と文章の間にあるものを、音楽や歌、コンテンポラリー・ダンスなどで表現し、見ている側も五感を使って想像を膨らませながら参加することで作品は完(作曲・台本)(演出・台本)

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