音脈 Vol.64|東京文化会館公演情報 2016年10月~12月
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音脈2016 AUTUMN4P9参照公 演 情 報―川端さんの願望や妄想も女将の描き方に表れているのかも知れません。長塚「本質の部分では、もっとグローバルでユニバーサルな「老いることの恐怖」というテーマを掘り下げているんですけどね。若い女性と一夜を過ごすことが、死の恐怖を取り除くことになるのか、恐怖に打ち勝つことになるのか。一人で死ぬことが怖い男にとって、若い子たちと添い寝をして、そういう場を設けさせてもらうことで、次の朝「あ、生きよう」と思って生きることになるのか…。川端さんは、一切負けてしまったでしょ。自殺されてしまったんですよね。彼にとって老いと死の恐怖は切実な問題だったかも知れない」―川端さんご自身が、睡眠薬中毒だったというエピソードもありますね。長塚「この作品の音楽的なところを僕はまだ詳しくわかっていないんだけど、オペラとしてどうなんですか? アリアのようなものはないですよね」―そうですね…19世紀のオペラの要素はないです。20世紀以降の前衛的なオペラの流れを継いでいるようにも思えますし、耽美的というより不安や焦燥が音楽的に強調されているように感じられました。長塚「僕が演じる役は、いい年をして、インテリで知識や経験もある男が、恐怖を克服するために若い女性のところに通うわけだから、音楽的にも若い女が勝ち誇っているようなものかと思いきや、音楽は神経質な感じがしますね。メロディアスに情感をたゆたう、みたいなのはない」原田「物語の行間が色んな音楽で埋められていますよね。クリエイトしていく空間が沢山あると思います。こことはもっと色々作れるぞ、とか、演出家との作業で埋まっていくものがたくさんあると思います」長塚「完成まで作り上げていくのはなかなか大変ですよね。コーラスとの掛け合いもあるし。ベルギーで上演された2009年版の映像では、俳優とバリトン歌手が大変よく似ていたけど、僕の場合そこはいっさい切り離して作っていくことになるかも知れない。難しいと思うのは、これは部屋の中の話ですよね。それを東京文化会館の大ホールで演じたとき、奥のほうから見た人は表現として伝わるのかどうか。セリフはマイクを通してやるというから、大きく張る必要はないんですが。囁くような喋りもするだろうし、そこは僕たちが映画でやっていることに近くなると思います。最後、「ああ」というセリフで終わるのですが…それは絶望なのか驚きなのかセックスなのか、ただ「あ」がふたつ並んで「ああ」と書かれているんです。そこに合わせて、歌手も役者も「ああ」とやるんですが…作家の胸三寸ですよね。川端さんのその書き方はずるい、何なんだ、と思ってしまいます(笑)」人ばかり来るところなのか』と言い合うシーンが出てきたり」原田「電気毛布も出てきますね。多分、当時は電気毛布がとてもハイカラなものだったんですね(笑)」長塚「アメリカ製だから、とか自慢するんだよね。三夜目に身体の大きな娘が亡くなるのは、電気毛布が取れてしまったからなのかな?原作でもそこはわからないんだけど。飲まされている眠り薬のアレルギーかも知れない」原田「時代的に、1960年代の初めの話なんですよね」長塚「だから、眠り薬というのも結構危ない薬だったり、そういう要素があるのかも知れない。それにしても、館の女将はどういう生活をしているか背景が全然わからない人なんだよね」原田「置屋の女将みたいな存在でしょうね。客と共犯関係にあって、秘密を共有している。西洋の人たちはそういうのを、どこかで割り切っていますね。切り捨てて考えているというか。オペラでは原作とは何かしら違うものが出ているように思いました」―眠りの美女たちの館の女主人を、悪役として演じようか、別のものとして演じようか、原田さんにプランはありますか?原田「そこが面白いところなんでしょうね。この設定は、川端さんが男の人の心を表すために考えたわけでしょう? 海辺の秘密クラブというのは」長塚「背徳的なバックグラウンドがありますよね。ひとつ間違えば、薬を飲ませて眠らせるということや、売春宿まがいの営業や、青少年の虐待の問題もあるわけで…」原田「女将には女の敵みたいなところがありますね。色々全部含めて興味深い。全部見えているようで見えていないんです。いいものも悪いものもあるけれど、「この家に悪はない」と抜け抜けと言うところも、確信犯的なところがあると思います。女主人に感情があったら、この話は成り立たないんです」長塚「若い女性と一晩過ごすということもさることながら、僕の役はこの人に会いに来ているような気がする。冗談を言ったりなんかしながら」―それは深いです!長塚「訳を知る者同士が「お前らは不潔だなぁ」と思われながらも、置屋の女将と情念の爺さんのようなやり取りをしている。売春防止法とかがある世相の中で、かなりユニークな館でしょ? 「そうでゲス」みたいな下町言葉、原作にもあるよね。女将さんのセリフにしても」 オペラ「眠れる美女 〜House of the Sleeping Beauties〜」

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