音脈 Vol.64|東京文化会館公演情報 2016年10月~12月
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13音脈2016 AUTUMN主催公演情報 プロセニアムのスター達文/野村三郎(音楽評論家)COLUMNvol.05ン国立歌劇場は最高の配役を日本にプレゼントしているのだ。 大作曲家R・シュトラウスと共にウィーン国立歌劇場を飾るワーグナーの《ワルキューレ》は、彼の《ニーベルンクの指環》の中で最も人気を勝ち得ている作品だが、今回の《ワルキューレ》は目下聴衆を最も納得させる演出と言える。 嬉しいのはヴォータンをトマス・コニエチュニーが歌う事である。彼は本来演劇畑の出身で、内面的表出に優れ、声の威力はヴォータンに相応しく、現在、最も適役と言えよう。彼のヴォータンの解釈は「ならず者」だというので非常に共鳴した事がある。妻のフリッカ役はそれに相応しい独特な生々しさを演ずるミヒャエラ・シュースターで、いいコンビである。一方、父ヴォータンの命に背き、劫火の中に置き去りにされるブリュンヒルデは、かつてワーグナー歌手として盛名をはせたビルギット・ニルソンの後継者の可能性を持つニーナ・シュテンメだから、彼女とヴォータンの幕切れの切々たる重唱は、深い感銘を与えるであろう。 忘れてならないのは上り坂にあるフンディング役のアイン・アンガーの迫力とジークムント役のクリストファー・ヴェントリスの二人であろう。ここまで役者が揃うと、ワーグナーを聴いたという満足感を得られることは間違いない。同時に《ワルキューレ》の有名なメロディはコマーシャルや映画にも使われ、聴き慣れた旋律だから、聴衆はすぐ作品に溶け込むであろう。 そして、オペラのオーケストラが、実質世界最高のウィーン・フィルハーモニーであることだ。それは世界中どこにも求められない贅沢なオペラ管弦楽団であるという事である。このようにどの観点から見てもこの公演は最高の愉悦の極みなのである。 ウィーン国立歌劇場は日本の聴衆の質の高さは十分承知していて、一切の手抜きはしないのだ。日本公演について出る出演者の感想は、聴衆の集中力と事前の曲目に対する研究、出演者に対する敬意である。 今秋、ウィーン国立歌劇場が日本公演で上演するR・シュトラウスの《ナクソス島のアリアドネ》(指揮マレク・ヤノフスキ)とワーグナーの《ワルキューレ》(指揮アダム・フィッシャー)は共に奇をてらわない演出をするスヴェン=エリック・べヒトルフだから、多くの方に興味を抱いて頂けるのではないだろうか。 ウィーン国立歌劇場は、ハプスブルグ王朝の宮廷劇場を引き継ぎ、1869年に建てられた。ハプスブルグ家は640年の歴史の中で、歴代の皇帝一家が芸術に深い関心を持ち、自ら作曲したり、演奏したりしてきた。第一次世界大戦で王政が倒れ、共和国になっても世界最高のオペラ劇場はそのまま維持され、今に至っている。ウィーン・フィルはこの歌劇場の管弦楽団が母体となっているのだ。 《アリアドネ》は、貴族の館で悲劇とコミカルなオペラをやる筈だったのを、同時に上演するようにとの命令で出演者は戸惑うという筋だが、ホフマンスタールの台本は巧妙にこの可笑しなテーマをクリアし、それをR・シュトラウスも、また見事なオペラに仕立てている。 気品に満ちたアリアドネ役は堂々たるソプラノ、グン=ブリッド・バークミンが、又コミカルな主役はオペラブッファでひときわ目立つコロラトゥーラ・ソプラノのダニエラ・ファリーを配しており、自由自在な高音を操る彼女は我が国のオペラファンを満足させるに違いない。ナクソス島に置き去りにされたアリアドネの救い主、バッカスは声量、透明度の高いテノールのヨハン・ボータだから、これら3人の歌手がエレガントで、ユーモアたっぷりのこのオペラの骨格をしっかりと支えるであろう。 ズボン役の作曲家には今や世界最高のメゾソプラノと言われるヴェッセリーナ・カサロヴァが当たる。これも聴きどころである。つまり万全の態勢で、ウィーウィーン国立歌劇場「ナクソス島のアリアドネ」 1980年10月8日(リハーサル) 東京文化会館 写真/木之下 晃

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