音脈 Vol.57|東京文化会館公演情報 2015年1月~3月
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音脈2015 WINTER8©青柳 聡 リート(歌曲)に対して、とりわけドイツ人は特別な思いを抱いている。それは音楽と詩の融合であり、歌とピアノの掛け算であり、形としては小さいが、包含する世界は大きな宇宙である。そのような歌曲の意義や魅力に日本の私たちを誘い、そしてドイツの音楽ファンをも改めて目覚めさせたのが、白井光子(メゾソプラノ)とハルトムート・へル(ピアノ)の歌曲デュオだろう。白井は「最近、ドイツでリートを活発にしようという運動があって、リートに興味を持つ若い人が増え、各国から若い人がドイツに勉強に来ている」と喜んでいる。 白井は生まれたときから「歌の子」だった。 「うちは和菓子屋さんだった(長野県・臼田町)。幼稚園に入る前から、職人さんが朝早く来ると、『おじさんが精が出るように歌ってあげるね』と、美空ひばりとかを歌っていたんです。母が私の歌を大好きで、いつも『はい、みっちゃん、歌って』とどこででも歌わされていた。幼稚園でも小学校でも、催しがあるといつも皆の前で歌ってました。中学校の講堂で行われたNHKのど自慢にも出て、鐘が鳴ってアルバムをもらいました」 ところが声楽家になると決めたのは遅い。 「ピアノ、日本舞踊、お茶、お花、母が三味線をやるのでそれもと、いろいろやっていたので、何をやると決めてなかった。小学校のころは、国語の先生が物語を『白井、読め』といつも言うので、皆の前でいろいろな声音(こわね)を出して読んで、朗読も大好きだったのね」 音大(武蔵野音大)に行ったが、初めからドイツを目指していた訳ではない。 「ドイツ語を勉強してもおもしろくなかった。でも、皆、ドイツに行くので『私も行こうかなあ』と。向こうへ行って、ドイツ語に色とか深さ、空間や動きがあることが分かって、ドイツ語が初めて好きになった。そしてある講習会で、『風はどんなふうに吹くか表して』『あなたの彼がナイフを持って格闘している。それに反応してください』などといろいろな場面を即興で表現することを学んで、曲の中に入るということは、そういうことか、そこで生きなければだめなのだ、と初めて分かりました」 白井とへルが注目を浴びたのは、シュトゥットガルト音大で知り合った二人が、名歌手、フィッシャー=ディースカウのマスターコースに参加したことからだ。 「彼はソロのピアノをしていたのですが、歌の先生から、一人ピアニストを探しているから、君にとっていいかもしれないから行ってきなさい、と言われて、彼が来た。彼は歌い手は太ってブワーンという感じだろうなと思ってたら、ちっちゃいのが出てきたから意外だったみたい(笑い)。ディースカウのマスターコースの2日目に、ディースカウがへルに『僕と一緒にやらない?』と言ってきたんですよ。直後のデムスとのコンサートをディースカウはへルに替えたい、と。さすがにデムスが『いや』と拒否して、ディースカウとへルのコンサートは翌年からになったんです」 ヴォルフ・コンクール優勝(1973年)をきっかけに二人はヨーロッパでの活躍の場を広げた。 「予選で2曲歌った時点で審査員から止められて『どこで勉強しているか』などといろいろ聞かれた。終わってホールを出ようとしたら審査員が追いかけてきて『あなたちはもう通りました』と。『あなたの歌はほかの人と全く違う。絵が見えてきて、コンクールではなくコンサートだ』と言われて、びっくりしました」 2015年3月、東京文化会館でブラームス、リスト、R・シュトラウスを歌う。 「言葉を分かって、その詩、文章に対するサブテキストができる。それがないと、描いてある絵をなぞっているような歌になってしまう。自分なりのサブテキストができると、曲を生き生きとさせることができます。今度のリサイタルは、カラフルな感情の世界の広がりを求めたプログラムで、自由に取り組めるので楽しみです」interview 04歌とピアノが真に出会うリート(歌曲)デュオ。音楽と文学が溶け合うこの小さくとも豪華な総合芸術を極めるのが白井光子とハルトムート・へルだ。プラチナ・シリーズ 第5回白井光子(メゾソプラノ)取材・文/梅津時比古(音楽評論家)

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