音脈 Vol.55|東京文化会館公演情報 2014年7月~9月
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音脈 Vol.55 2014.SUMMER8レポートMusic Weeks in TOKYO 2014 プラチナ・シリーズ 東京文化会館の小ホールの客席に座ると、音楽的な時間が流れ始める。これまでの名演の記憶、そしてこれから聴く音楽への期待。その小ホールの素晴らしい音響を活かして、世界各地で活躍を続ける達人たちを招く。それが「Music Weeks in TOKYO 2014」の「プラチナ・シリーズ」だ。2014年も豪華な演奏家が集まり、ここでしか聞けない贅沢なプログラミングを披露してくれる。ジャズ、バッハとコンテンポラリー、無伴奏チェロ、そしてデュオのコンサートもふたつ。そのジャンルの多彩さもプラチナ・シリーズの魅力である。今年は12月のクリスマスからシリーズが始まる。 12月25日の第1回にはジャズ・ピアノの鬼才、山下洋輔が登場する。1960年代に世界を揺るがしたフリー・ジャズ。山下はその先頭に立ち続けていた。山下洋輔トリオとして活動し、数多くのアルバムも発表してきた。また近年ではクラシックのスタイルを元にした作品(ピアノ協奏曲など)も発表している。先鋭な音楽、そしてアグレッシブな演奏。山下の先取り精神は、多くの音楽家に影響を与えて来た。今回はクリスマス当日のソロ・コンサート。曲目は当日発表なので、どんな音楽が飛び出してくるかは分からないが、予定調和のない、つまり聴衆の予想もつかないようなところから、音楽を作り出して来るだろう。そのサプライズ感も、コンサートを楽しむ要素のひとつなのである。 第2回は2015年の1月21日。オーボエのシェレンベルガーとヴァイオリンの堀米ゆず子という世界的なソリストを中心にしたアンサンブルにより、“バッハ・コントラスト”というタイトルのコンサートが行われる。シェレンベルガーはベルリン・フィルの首席オーボエ奏者として、カラヤン時代から活躍してきた。現在では指揮者としても活動を行っている。堀米は日本を代表するヴァイオリニスト。エリーザベト国際音楽コンクール(ベルギー)優勝後、長くブリュッセル在住で、世界各地で演奏会を行っている。チェンバロにはやはり日本を代表するチェンバロ奏者・中野振一郎が加わる。バッハのトリオ・ソナタの間に、現代の作曲家であるハインツ・ホリガーと三善晃の作品をはさみ、バロック時代と現代のコントラストを感じさせるという内容。名手たちの共演が、まさに時代を超えた音楽の対比を浮かび上がらせるだろう。 第3回は2月1日。世界的なチェリスト、ミッシャ・マイスキーの無伴奏リサイタルが行われる。世界中のコンサートホール、音楽祭から引っ張りだこのマイスキー。彼がこの小ホールの空間で、無伴奏でコンサートを行うのはまさに奇跡的な出来事である。これまで大きなコンサートホールで彼の無伴奏チェロの演奏を聞いたことはあるが、朗々としたそのチェロの響きは、静まり返ったコンサートホールを満たすように広がって行った。そのマイスキーは、小さな空間の中でどんな演奏を展開するのだろうか?もともと繊細なニュアンスを持つ彼の演奏は、こうした親密な空間でこそ生きるものだと思っていた。多くのチェロ音楽ファンにとっては待望のコンサートとなるだろう。 第4回は2月27日で、仲道郁代と川久保賜紀によるデュオ・リサイタル。ベートーヴェンとブラームス。それぞれの代表的なピアノ曲、ヴァイオリン・ソナタを組み合わせたプログラムである。仲道はベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会シリーズを行い、録音も残してきた。考え抜かれた演奏で、ベートーヴェンの魅力をいつも新たに気付かせてくれる。今回、ベートーヴェンはヴァイオリン・ソナタ第5番「春」と、ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」が演奏される。ブラームスはヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」と、ピアノ小品集(作品117、118-2)が演奏される予定だ。ヴァイオリンの川久保は2002年のチャイコフスキー国際コンクール最高位入賞など、世界の第一線で活躍してきた。豊かで多彩な音色が魅力で、いま充実の時を迎えている。このふたりのデュオも、小ホールの空間で聞くと、よりいっそう味わいの濃いものとなるだろう。 第5回は3月6日。シリーズの最後を飾るのは、リートデュオとして長く活躍してきた白井光子とハルトムート・ヘルによるコンサートである。弦楽四重奏も4人の弦楽器奏者が長くリハーサルを重ねて熟成してくるように、リートの世界も声楽家とピアニストが、その人生をかけて、何度もリハーサル、演奏を繰り返し、その積みかさねによって、初めてその演奏家の個性が浮かび上がってくる世界である。だから、長くデュオ活動をする声楽家とピアニストが多いのだが、白井&ヘルは1973年からデュオを組んでいるというから、すでに40年以上となる訳だ。丁寧に作り上げられた解釈によって言葉と音楽が結びつく時に、その作品の真価が現れると思う。白井&ヘルのデュオは、作品の真の姿を教えてくれる。声楽ファンだけでなく、多くの音楽ファンに聞いて欲しいコンサートだ。(片桐 卓也)

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