音脈 Vol.42|東京文化会館公演情報 2011年4月~6月
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72011. Spring音脈木之下晃のレンズは語る木之下晃のレンズは語る 昨年の大晦日に、東京文化会館でロリン・マゼールがベートーヴェンの全交響曲9曲の連続演奏会を一日で行った。東京文化会館で大晦日にベートーヴェンの交響曲全曲を一日で演奏する企画は2003年に始まり、昨年で8回目を迎えた。当初は3人の指揮者が分担して演奏したが、04年から故・岩城宏之が一人で全曲指揮に挑戦。05年には病躯を押して敢行し、彼はこれを「ライフ・ワーク」にすると情熱を傾けていたが、惜しくも06年に逝去。その岩城の意欲を称えて、NHK響を中心に、各オーケストラの首席奏者を集めて構成されているオーケストラの名称に岩城宏之の名前を冠している。 実はベートーヴェンの交響曲を1日で全曲指揮するというアイディアを最初に行ったのはマゼールだった。1988年にロンドンで3つのオーケストラが交代しながら、指揮はマゼールが一人で演奏したのである。 マゼールは昨年80歳を迎えた巨匠中の巨匠で、今回は滞日4日間のうち1日6時間のリハーサルを3日間行って、本番当日は午後1時10分にスタート。9曲を5回に分け、それぞれに1時間ずつの休憩を取って、終了したのが23時40分。傘寿を迎えた人とはとても想像もつかない矍鑠とした棒で、それに実力者揃いのオーケストラが見事に応え圧巻な演奏会だった。 マゼールはユダヤ系ロシア人の父親とハンガリーとロシア系の母親との間に、1930年フランスで生まれ、生後間もなくアメリカのロスアンジェルスを経てピッツバーグに移り、そこで育った。4歳頃から並みはずれた絶対音感と記憶力が評判となり、5歳でヴァイオリンとピアノ、7歳から指揮を学び、8歳で大学のオーケストラで『未完成』を指揮。9歳でニューヨーク・フィルを指揮して天才の名がとどろき、トスカニーニの推薦でNBC響をはじめ、10代でアメリカのメジャー・オーケストラの殆どの指揮台に上った。17歳でピッツバーグ大学に進み、数学や哲学を専攻。在学中にピッツバーグ響のヴァイオリニストになった。51年21歳の時にフルブライト奨学金でイタリアへ留学。その年シチリアのオーケストラを指揮してヨーロッパ・デビュー。以来、150を越える世界の著名なオーケストラで、5000回以上の演奏会を指揮している。 東京文化会館に初めて登場したのは73年1月23日で、当時首席指揮者を務めていたベルリン放送交響楽団を率いて彼が2度目に来日した時であった。私はその時に初めてカメラを向け、その後来日の都度撮影を続けている。巨匠の暗譜力は楽譜を写真に写したみたいに記憶するといわれ、私の顔も2度目に会った時から覚えてくれた。その後クリーヴランド、ザルツブルク、ピッツバーグなどでも撮影を重ねてきている。96年にはピッツバーグの自宅にお邪魔して、巨匠の子供時代の家庭のアルバムを複写させてもらった。その時、93歳の父リンカーン・マゼールさんにお会いした。彼は俳優として欧米で活躍し、なんと2009年に106歳で天寿を全う。マゼールが年令を感じさせない指揮をしているのは父親譲りのDNAにあると云える。巨匠マゼール~圧巻なベートーヴェン全交響曲演奏写真・文~木之下晃ⒸAkira KINOSHITAロリン・マゼール(岩城宏之メモリアル・オーケストラ) 2010.12.31 東京文化会館

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