音脈 Vol.40|東京文化会館公演情報 2010年10月~12月
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音脈2010. Autumn8東京文化会館50周年に向けて 今日の音楽ファンの多くは東京文化会館大ホールをまず何よりオペラやバレエのための劇場とみているようだ。実際年間のスケジュールをみてもオペラやバレエの公演が主であることはたしかなので、現在の東京文化会館についてのそうした見方は間違ってはいないだろう。実際私を含めて、(もともとオペラおよびバレエの専門劇場として設計・建造された新国立劇場は別として)東京でオペラを観るならやはり東京文化会館がベストと思っている人が多いはずだ。東京文化会館が日本のオペラ受容にとっていかに大きな拠点となったか、そのことについては前号で堀内修さんが書かれていらっしゃるとおりである。 ただそこで堀内さんも一言触れられていたように、開館当時から東京文化会館ではオーケストラのコンサートも多く行なわれた。いや、まだ今日のように外来のオペラ団が来日するのが稀だった当時にあっては、東京文化会館はまず第一にオーケストラのためのホールだったといってよい。当時主だった来日オーケストラの演奏会場は東京文化会館が中心だったし、東京のオーケストラの定期もほとんどが東京文化会館で行なわれた。状況が変わるのは1980年代後半以降、サントリーホールをはじめとするコンサート専用のホールが続々と生まれる一方で、外来オペラが名門からマイナーな団体まで次々と来日するようになってからのことである。この時期から、オーケストラはコンサート専用のホールがあるからそちらでやろうという動きが主流となり、東京文化会館では増えてきた内外のオペラ公演やバレエ公演を中心に行なわれるという棲み分けがなされるようになってしまった。それまで東京文化会館で定期演奏会を開催していたほとんどの在京オーケストラが次々と別のホールに移るとともに、外来オーケストラも東京文化会館を使っての公演が激減し、そうした状況は今日まで続いている。これは東京文化会館がオペラ劇場としての優れた機能を備えていたための結果であり、決してオーケストラに適さないからということではないのだが、最近のファンの中にはそのあたりをいくぶん誤解している人も少なくないようだ。先日もある音大生が「東京文化会館であまりオーケストラの演奏会をやらないのは、オーケストラには不向きなホールだからなのでしょう?」と言うので、かつてはこのホールこそオーケストラの演奏会の主会場だったことを話すと一寸驚いていた様子だった。 現在は東京文化会館で聴けるオーケストラ公演といえば、特別の企画やアマチュア団体の演奏会を別にすれば、東京都交響楽団による定期演奏会と、鑑賞団体である財団法人都民劇場が主催する外来オーケストラの公演があるくらいだが、そうした数少ない機会に聴いてみると、あとから出来た他のコンサート専門のホールに勝るとも劣らず、このホールがいまだオーケストラ用のホールとしてきわめて優れた独自の特性を持っていることを改めて痛感する。もちろんサントリーホールやオペラシティなどの最近のホールとは違って、残響がやや少なめであることはたしかで、その点で新しいホールに耳が慣れている聴衆にはやや戸惑うところがあるかもしれない。しかしその点こそが東京文化会館の独自の音響特性であり美質なのであり、残響が少ない分、細部まで音の重なりや動きがクリアに伝わってくるところがよい。しかも、例えばこの会場より古い日比谷公会堂のようなそれこそ残響なしでそれぞれの音がむき出しで飛んでくるような音響(それもまた懐かしくはあるが)とは異なり、響きのまとまりと適度な潤いがある。内外の多くの指揮者が東京文化会館を高く評価しているというのも、明晰でありながら無味乾燥にならないそうした音響特性によってオーケストラのサウンドをありのままに聴衆に伝え得るからだろう。 もっともありのままということは逆にみれば、オーケストラの実力もそのまま露わにされてしまうということである。残響の多いホールだったらある程度はごまかすことができるような音程の不正確さ、縦の線のずれ、細かなミスなどが、あからさまに浮き上がってしまう。サントリーホールが開館して多くの楽団が定期演奏会をそこに移した時期、急に巧くなったような印象を与えた楽団があったものだが、それは残響のなせるわざであった。そうした本当の実力と技量が測られるという意味で、東京文化会館はオーケストラにとっては“怖い”ホールであるともいえるだろう。 そして、そうした“怖い”といえる優れた美質を持ったホールであるからこそ、東京文化会館は1960年代から80年代にかけてというちょうどよい時期に、日本のオーケストラの向上と、日本の聴衆のオーケストラ受容のために、多大な役割を果たすことになった。“ちょうどよい時期”といったのは、日本の高度成長期にあたるこの時期が、日本のクラシック音楽、とりわけオーケストラ界にとっても大きな発展期でオーケストラ・ホールとしての東京文化会館今回は、小学生の頃から東京文化会館でオーケストラ公演を鑑賞していらっしゃる音楽評論家の寺西基之さんにご寄稿いただきました。寺西基之

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