音脈 Vol.38|東京文化会館公園情報 2010年4月~6月
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音脈2010. Spring2東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2010-東京文化会館が柿こけら落おとしを行なってから、来年で50年になる。もうそんなに年月が経ってしまったのかと、内心些か鼻白む思いだ。もちろんこれは、ホールに対してではなく、自分がそんなにも歳を取ったことに対してなのだけれども。 しかし、この東京文化会館が出来た時、それが当時のわれわれ音楽ファンにとってどれほどの喜びであったか、今の若い方たちには想像もつかないだろう。それまで東京には、大ホールといえば日比谷公会堂と、大手町の産経ホールしかなかったのだ。それらに比べれば東京文化会館大ホールは、まさに「夢のような世界」だったのである。 まず、建物の概観が「公会堂風」でなく、モダンで立派である。ホワイエもロビーも広くて明るく、しかも堂々たる重量感に満ちた「石」の造りの豪壮さに圧倒される。一歩客席に入れば、他のホールとは比べものにならぬほど明るく、しかも広大な空間に息を呑むだろう。舞台手前両側の、雲形定規のような吸音板が取り付けられたユニークなデザインの壁面が目を惹く。赤や青や黄色の椅子がランダムに配置された客席は、カラフルで華やかさにあふれる(その頃は、今より椅子の色の種類が豊富だった)。しかもその椅子は̶̶当時としてはだが̶̶格段にゆったりしていて座り心地が良かった。そして何より、日比谷公会堂とは雲泥の差と言うべく、音響効果がすばらしく、たっぷりした豊麗な響きが味わえたのである。「ついに完成した本格的な音楽会場!」と音楽雑誌に活字が躍ったのも、当時の楽界の喜びを象徴していたであろう。「日本フィルを東京文化会館大ホールで聴いたら、とても上手いオーケストラに聞こえた」と言う人もいたくらいであった(レコード芸術1961年6月号「音の殿堂・その音響効果」)。 ただし、そういう音響に慣れない演奏家たちや聴き手たちからは、いろいろ文句も言われたらしい。特に、それまで残響ゼロの日比谷公会堂でのアコースティックをすべての基準としていた演奏家たちは、音が響きすぎてバランスが取りにくいとか、音の「はね返り」が多くてピアノやアンサンブルの細部の音が聞き取りにくいとか不満を言ったという話である(前掲書)。だがまあこれは、いつの時代にも、残響の長い良く響くホールが出来た時には必ず出る話だ。のちにいっそう残響の長いサントリーホールが出来た時、それまで東京文化会館大ホールでの響きを基準としていた演奏家たちが「ここは演奏しにくくて困る」とぼやいていたのを私も実際に聞いている。要するに「慣れ」なのである。音響の違いは好みを分けるが、一段落すれば、それぞれの個性として受け入れられるのだ。●「東京・春・音楽祭-東京のオペラの森-」は、今回から東京・春・音楽祭実行委員会と東京文化会館が共催し、より緊密な連携をもとに実施することになりました。そこで、音楽評論家の東条碩夫氏に音楽祭の魅力について寄稿いただきました。TOKYO OPERA NOMORI 2010東京・春・音楽祭東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2010-2010.3.14 Sun.-4.10 Sat.東京・春・音楽祭と東京文化会館文:東条碩夫(音楽評論家)

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