コンセプト
作曲家クリス・デフォートとプロデューサー、ギー・カシアスが初めて手がけたオペラ「ポーラ - ドアを開けた女」(2001年)が成功を納め、2人は次となるプロジェクトを手がけた。その原点は1968年度ノーベル文学賞受賞作家、川端康成の「眠れる美女」(1961)である。
年老いた男性が薬で眠らされた若い女性の暖かい体に寄り添い一夜過ごすことができる奇妙ではかない逸楽の館で起こる江口老人の物語。別れ、老い、死を描いた作品。
この穏やかなエレジーを読みながら直ちにクリス・デフォートの頭の中に音符が浮かんだ。このオペラでは、楽器としての歌声が必要不可欠な要素になる。4名の女声コーラスの声を通して眠る若い女性達の体を描写していく。江口の行動や思考、そしてこの物語の重要な役割を担っている「自然」の描写をソプラノが歌う。江口老人の役をバリトンが演じ、若い女性達に抱く第一印象、そして彼女たちが呼び起こす老人の過去の女たちの思い出を表現する。したがって、「寝室」は歌声及びリリシズムの空間となる。
江口が館を訪問する度、寝室に入る前に館の女主人と会話をする。この日常的で現実的な会話は男女の俳優によって演じられる。内と外、台詞と歌という相反する特色、激しさ、感情を持つ2つの切ない世界。
(マリアンヌ・ヴァン・ケルホーフェン)
あらすじ
〈第1夜〉
館の女主人は、娘が眠る寝室の鍵を手渡す前に、娘を起こしてはならないと老人に強く言い聞かせる。老人は寝室に入り、裸で眠る娘を見てその傍らで横になる。娘の胸の匂いが老人の最初の思い出を呼び起こす。自分の娘たちが赤ん坊だったころの思い出。そして、初めて女性を抱いた思い出。

〈第2夜〉
老人は、「客は娘に対して、どこまでの行為が許されるのか」を女主人に尋ねる。「眠っている娘に添い寝する」ことだと女主人は答え、今夜の娘は前回と比べて経験が浅いことを伝える。
館の掟を破りたい欲望が老人を刺激する。娘を揺すったり、激しく動かしたりして起こそうとするが、処女のしるしを見る。娘の純潔を奪うことによって娘にもたらす悲劇を考える。成熟した自分の末の娘を思い起こす。この娘の体のメロディーは生命と永遠の眠りを表現する。何年も前に忘れることのできない2夜を共にした女性を思い出す。あれが最後の女だっただろうか… また、娘にたとえば首を絞めるような酷いことをしたいという欲望がわき上がる。しかし、美しい裸体を目の前にして老人はおもわず泣いてしまい、永遠に眠りたいと願う。

〈第3夜〉
3回目に訪れたときに、老人は館で誰かが死んだことをほのめかし、女主人になぜ遺体を夜中に運び出したのかを尋ねる。自分に同じことが起こったら、運び出されたくないと言う。女主人は黙って鍵を渡す。
老人は娘を眺め、ハンカチで娘の汗を拭う。そうしていると、昔、若い娘の赤い口紅を拭ったことを思い出す。「この娘が私の最後の女だったか」と思い、また別の思い出が浮かび上がる。花が咲き乱れる庭で母親が自分と若い妻を迎えてくれる。母親は初めての女。母の姿が次第に母の死へと変わっていく。娘が息をしていないことに気づき、夢想から引き戻される。女主人が部屋に入ってきて「死んでるはずがありません。お休みください。」と告げる。老人はその場に立ち尽くす。
(マリアンヌ・ヴァン・ケルホーフェン)
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